そうだ、森先生に聞いてみよう-①


今回対談いただくのは、私たち保育に携わる者にとって、現代保育の基礎を作っていただいた恩人で、昭和50年頃、助教授・教授時代にメディアに頻繁に登場していた「昭和の尾木ママ」こと森楙(もりしげる)先生。

今回の対談シリーズにあたり、まずはご挨拶にと森先生のご自宅を訪問してきました。




森先生プロフィール

森 楙(もり しげる、1932年6月16日 - )

日本の幼児教育学者、教育社会学者、広島大学名誉教授。

「あそびを育てる(保育技術シリーズ)」「遊びと発達の心理学」など著書・訳書多数。




大きな机に山積みされた資料、研究室のようなリビングで対談が始まりました。

堀江大園長(以下「堀」)「長崎のご出身とお聞きしましたが」

森楙先生(以下「森」)「そう、中学1年の時、終戦を迎えてね。今でも覚えてるけど、長崎に向かっていく大きなB29を雲仙のふもと島原で見上げてたんですよ」

堀「そうですか。ずっと島原で?」

森「その頃から体格が良かったんで、中学の時はラグビーでスクラム組まされて、高校では野球をやってました。それから教員になりたくて京都大学を志望したら担任から、教員になりたいなら広島文理科大学(現、広島大学)だろうと言われてね。当時は東の東大(現、筑波大学)、西の広大といわれてて、この旧二文理大が日本の教育界の総本山と言われてた時代ですよ」

堀「それで広島に縁ができたんですね。保育の道に進まれたのは?」

森「大学院を出て助手を経て昭和37年に広島県立保育専門学校の主事についてからですね。その頃は広島市でも公立の保育園が2つしかなかったし、当時保母さんて呼ばれてましたけど、7割は無免許でやってました。だから保育園を見る社会の目は『子守り』なんですよね。保育が『子守り』じゃダメだ、『育てる』でなけりゃ。それから保母資格のレベルアップと拡充を推進して今の保育の基礎ができました。働くお母さんの力強い応援になってたんじゃないかなと思います」

森楙先生。手にしているのは、くうねあ発行のタブロイド紙。


大御所の前で緊張していた進行役の堀江大園長




堀「メディアにもたくさん出演されてますよね」

森「そうですね。広島大学の助教授、教授時代ですね。当時は教育関係者がテレビや新聞に出るのは珍しかったんじゃないですかね。第2次ベビーブームで高度経済成長期も終わり頃です。子育てに関心が向いていたんでしょうね。それまでベテラン保育士の経験則に頼っていた保育理論を可視化して一般のお母さんに講演などで回って見てもらってた。それがわかりやすく珍しかったんでしょう。噂になってバッと広まった感じです。NHKや民放局、新聞社などにも結構出ましたね」


以下は昭和38年、今から約60年前の新聞記事です。

子どもへのテレビの影響が問題になっていた時代です。ぜひ読んでみて、テレビをスマホに置き換えてみてください。

森先生はなんと半世紀以上前から示唆に富む発信をされていました。

森先生へのインタビュー記事。中国新聞 昭和38年(1963年)8月3日

テレビと現代っ子の関係 ~ストレスからの解放 ただ活字を敬遠しがち~
<映像を通じて人間形成>
テレビと現代っ子の関係が最近よく問題にされている。思考力・学力の低下、危険な遊びの流行など、テレビを中心にしたマスコミの影響としてかたづけられがちだ。だが、果たしてテレビはそれほど悪い影響をあたえているのだろうか。広島県立保育専門学校主事森しげる氏は、そういった考え方に反論し、テレビの効用を重視、テレビの映像を通じての人間形成を主張している。そこで森氏らが広島市内の中学生を対象にテレビ視聴調査に取り組んだ ~中略~ 調査は、市内五中学の生徒千九百人について、テレビ番組の好みと、テレビの集団にたいする態度を中心に行われている。その結果、テレビをよく見るいわゆるテレビっ子は、学校で友だちとの交際もよく、人気者であるというおもしろいデータが出た。たとえば「事件記者」の視聴率は、友だちづきあいのよくない子ども(非友人志向)が20.5%にたいして、友だちの多い子ども(友人志向)は、33.5%といったぐあい。 ~中略~

<テレビっ子は社交的・学力低下は思い過ごし>
テレビっ子は、学力が落ちるのではないかという心配が出てくる、現にそういった批判もしばしば聞かれる。しかし調査によると標準学力テストや知能の点でも、両者の間にほとんど差がないという結果が出ている。「テレビイコール学力低下と考えるのは、教科書中心の昔風の教育にこだわった見方だ」と森氏はいう。もっともテレビっ子は、活字を敬遠しがちで、理論的な考え方、思考力に欠けるという心配もある。
これについて森氏は次のように反論している。「アメリカの学者リースマンが“むかしの人は内部に羅針盤を備えていたが現代人はレーダーを持って行動する”と指摘している。 自主性がないという意味で、これはそのままテレビっ子にもあてはまるのだ。 ~中略~ それにテレビが、子どもたちの思考力を減退させるという科学的データは全然出ていない。むしろ、テレビを中心にした映像教育を通しても思考力を養うことができると思う。コチコチの秀才をめざす教科書教育より、幅広い人間ができる映像教育のほうが現代社会にはマッチしているのではないか。また、テレビの俗悪番組が、現代っ子に悪影響を与え、子どもたちの犯罪が、テレビに起因するという声が良く聞かれる。なるほど、二、三ケースとしては出ている。しかし直接テレビと犯罪が結びつくとはいえない。“ピストル効果”にはなっているかもしれないが、つまり、子どもたちがピストルの引き金を引くきっかけにはなるが、実際に引きがねを引かせるのは、社会的環境、家庭環境だということだ。むしろ、子どもたちが悪の道へ走るのは、過度の進学競争からはみ出した場合が問題で、秀才づくりをめざすいまの教育方針に欠陥がないとはいえない。その意味からもテレビっ子は現代っ子を勉強、勉強のストレスから解放させる効力も持っているといえる。ともかく、テレビは、現代っ子が生まれる以前から厳然として存在し、いまや生活の一部ともなっているのだから、それからむりやりに引き離そうとするのはナンセンスだ。逆にそれを利用していくべきではないか」

<親もいっしょに楽しむ>
ではどのように映像教育を進めたらいいのだろうか。子どもたちの日常生活のよりどころである仲間集団、家族集団の内容を変えることが先決だと森氏はいう。「たとえば、現在の子ども会だが、これはあまり教育的すぎて子どもから遊離していると思う。これを“西部劇を見る会”にしたらどうか。はじめは娯楽番組から始め、次第に大人が指導して、集団の質を高めていくという方法である。これは家庭でも同じこと。親がいっしょにテレビドラマを見て、いい点や悪い点を話し合ったり、先生が子どもたちとテレビの話をして、その中で大人の良識を子どもに伝えるというわけだ。テレビ時代においては頭からテレビっ子を批判する前に、まずこのような方法で子どもたちを指導してゆくことが大切だと思う」




堀「ところで森先生、また新しく本を出版されるとか」

森「そう、16年間蓄積してきたデータを論文にした集大成ですよ」

堀「どんな内容ですか」

森「グランドゴルフの研究論文です。グランドゴルフの特性やコミュニティのグランドゴルフ杯で私が実践・収集してきたデータ分析です。いたって大真面目な論文です」

堀「16年間のデータ!いやすごい、真似できません。学びに年齢は関係ありませんね、恐れ入りました」(笑)


森先生ご自宅のベランダからはパワースポット宮島が見える。
探求心のエネルギー源はここからかと納得。
左から森先生、さかい園長、堀江大園長。




堀「ところで広大付属幼稚園長を兼任されてた時に、副園長になかわたり仲渡規矩子(なかときくこ)さんがいらっしゃいましたね」

森「そうですね、教え子でもあります。いろいろ保育についても語り合いました」

堀「次回は場所を変えて仲渡先生との鼎談という形でいろいろお話をお伺いしたいと思っています。宜しくお願いいたします」

森「はい、よろしく」




大園長の対談シリーズ・エピソードⅠ「そうだ、森先生に聞いてみよう-①」
おわり


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